骨粗しょう症は、老化などが原因となって骨の量が減少し、鬆(す)が入ったように骨がスカスカになり、もろくなって骨折リスクが高くなってしまう疾患です。
骨に含まれるカルシウムやマグネシウムなどのミネラル量(骨密度)は、20~30歳頃の若年期をピークに、年を重ねるとともに減少していきます。
この骨密度が減少をきたすことによって骨粗しょう症と言われる状態になり、背骨が体の重みでつぶれたり、背中が曲がったり、変形による圧迫骨折をきたしたり、ちょっとした転倒で骨折するといった事態を引き起こしがちになります。
現在、わが国で寝たきりになる原因の第3位が転倒による骨折ですし、介護が必要となる原因の10%近くが「骨折・転倒」によるものですから、要注意です。
骨粗しょう症は、高齢の女性を中心に、年々増加の一途をたどっています。
骨粗しょう症患者の8割くらいを女性が占めており、女性ホルモン(エストロゲン)の分泌が低下する更年期以降に特に多く見られます。エストロゲンには、骨の新陳代謝に際して骨吸収を緩やかにし、骨からカルシウムが溶け出すのを抑制する働きがあります。閉経して、このエストロゲンの分泌量が減少してきますと、骨吸収のスピードが速まるため、骨形成が追いつかず、骨がもろくなってしまうのです。そのため、閉経を迎える50歳前後から骨量は急激に減少し、60歳代では2人に1人、70歳以上になると10人に7人が骨粗しょう症になっていると言われます。ですので、50歳になる前に骨粗しょう症の精密検査を受けるよう、お勧めいたします。
一方では、偏食や極端なダイエット、喫煙や過度の飲酒なども骨粗しょう症の原因と考えられており、最近では高齢の女性だけでなく、若い女性の骨粗しょう症も問題視されています。
FRAX(fracture risk assessment tool)はWHO(世界保健機関)が開発した「骨折リスク評価法」です。FRAXは40歳以上の方を対象にしており、この評価法を用いると、その人の今後10年間の骨折リスクの診断が可能になります。
インターネットでWHOのホームページにアクセスし、12の質問に答えると、自分自身の10年以内に骨折する確率(%)が、自動的に算出されます。FRAXは、医療の現場でも、薬物治療を始めるかどうかの判断に使われることがあります。
チェック項目の1つ「大腿骨頸部の骨密度」については、体格指数(BMI=体重(kg)÷身長(m)÷身長(m))を入力しても判定が可能で、骨密度の測定が必要無いというのも特徴です。
FRAXで骨折リスクが高く出て心配な方は、整形外科を受診されることをお勧めいたします。
骨粗しょう症の診断には、骨密度の測定、X線検査、身長測定、血液・尿検査などが行われます。
骨の強さを判定する際の重要な尺度の1つに“骨密度”があります。当院では、DXA法*による骨密度の測定を行っております。
*DXA(デキサ)法
二種類の異なるエネルギーのX線を照射することによって骨量を測定します。高い精度で、しかも迅速に測定することができます。
主に背骨(胸椎や腰椎)のX線写真を撮り、骨折や変形が無いか、また「骨粗しょう化」の有無(骨に、鬆(す)が入ったようにスカスカになっていないか)を確認します。骨粗しょう症と他の疾患とを判別するのに必要な検査です。
25歳の頃の身長と比べて、どのくらい縮んでいるかを調べます。25歳時より4cm以上低くなっている場合は、それほど低くなっていない人と比べ、骨折する危険性が2倍以上高いという報告があります。
骨代謝マーカーを調べることにより、骨の新陳代謝の速度がわかります。骨吸収を示す骨代謝マーカーの高い人は骨密度の低下速度が速いため、骨密度の値にかかわらず、骨折の危険性が高くなっています。
骨粗しょう症の原因のうち、年齢や性別、遺伝的な体質などは変えることができません。
しかし変えることのできる要素、つまり食生活や運動などの生活習慣を見直すことにより、予防と改善が可能です。
骨粗しょう症の治療や予防に必要な栄養素は、骨の主成分であるカルシウムやたんぱく質、および骨のリモデリング*に必要なビタミンD・Kなどです。
カルシウムは食品として700~800mg/日、ビタミンDは400~800IU/日、ビタミンKは250~300μg/日を摂取することが推奨されています。これらの栄養素を積極的に摂りながら、しかもバランスの良い食生活を送ることが大切です。
骨粗しょう症の人が避けるべき食品は特にありませんが、リンやカフェイン、アルコールなどの摂り過ぎには注意しましょう。過ぎた量のアルコールは、カルシウムの吸収を妨げたり、尿からのカルシウムの排泄量を増やしたりします。カフェインもまた、カルシウムの排泄を促します。リンを摂り過ぎると、血液中のカルシウムとリンのバランスを保とうとして骨の中のカルシウムが血液中に放出されてしまい、骨密度の減少を招きます。
*リモデリング:骨を壊す働きをする「破骨(はこつ)細胞」が骨を吸収する一方で、骨を作る働きをする「骨芽(こつが)細胞」が、破骨細胞によって吸収された部分に新しい骨を作る代謝作用のこと。
骨は、運動をして負荷をかけることで増え、丈夫になります。さらに、筋肉を鍛えることで体をしっかり支えられるようになったり、バランス感覚が良くなったりし、ふらつきが少なくなって転倒防止にもつながるため、運動療法は骨粗しょう症の治療に不可決です。
骨量を増やすには、ウォーキングやエアロビクスなどの中程度の強度の運動が効果的で、激しい運動をする必要はありません。散歩などは可能なら毎日、あるいは週に数回でも十分ですので、とにかく長く続けてください。また、背骨の骨折を防ぐためには、背筋を鍛える運動が効果的です。
病状が進んだケースでは、食事療法や運動療法に併せて薬物療法を開始します。現在、使われている薬には、骨の吸収を抑える「骨吸収抑制剤」、骨の形成(新しい骨を作る)を助ける「骨形成促進剤」、骨の栄養素である各種ビタミン(D、K)剤などがあります。また、腰や背中などに痛みがある場合は、痛みを取る薬も用いられます。どんな薬を選び、いつから治療を開始するかかについては、個々の患者様の年齢や症状の進み具合などを考え合わせながら、医師が判断します。
現在、治療に用いられている薬には、主に以下のようなものがあります。
骨吸収を抑制することによって骨形成を促し、骨密度を増やします。骨粗しょう症の治療薬のなかでも有効性の高い薬です。ビスフォスフォネートは腸で吸収され、すぐに骨に届きます。そして破骨細胞に作用し、過剰な骨吸収を抑制するのです。骨吸収が緩やかになると、骨形成が追いついて、密度の高い骨ができ上がります。
骨に対しては、女性ホルモンのエストロゲンに似た作用があり、骨密度を増加させますが、骨以外の臓器(乳房や子宮など)には影響を与えません。
骨形成を促進して骨量を増やし、骨折を減少させる薬です。専用キットを用いて1日1回自己注射する薬と、週1回病院・診療所で注射する薬があります。複数個所の骨折が起こっていたり、骨密度が著しく減少しているなど、重症の患者さんに用いられます。
カルシウムの腸管からの吸収を増やす働きがあります。また、骨形成と骨吸収のバランスも調整します。
骨のたんぱく質の働きを高め、骨の質を改善します。骨折を減らす効果が認められています。
女性ホルモンの減少に起因する骨粗しょう症に有効です。閉経期のさまざまな更年期症状を軽くし、併せて骨粗しょう症を治療する目的で用いられます。
骨吸収を抑制する作用があり、強い鎮痛作用も認められています。骨粗しょう症に伴う背中や腰の痛みに用いられます。
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